1989年〜

エンジン開発履歴に戻る
エンジン開発履歴』 念願のロードレース用ファクトリーエンジン開発に従事出来る事になった。
ロードレース ”TT−F3”クラスとは。(ウィキペディアから抜粋)
  4st400cc以下または2st2500cc以下の公道用市販車をベースにレース参戦用に改造を
施した車両によって競われるクラス。 1984年から1991年まで開催された。TT−F1クラス同様改造を許された範囲が広く、参戦費用はTT−F1より低く抑えられることもあり1982年ごろからF3ブームとなり参戦台数も非常に多く、4st400ccと2st250ccの混走でありコースのレイアウトによっては250ccで400ccを上回る場合もあり、その対決も見ものであった。

 
1993年度を持ってTTーF3のレースが廃止される。
  皮肉にも鶴田竜二ライダーがTT−F3の年間チャンピオンを取った時には担当が外されており、入社間もない部下が優勝表彰されている。
  それはスズカ8耐でも同じことがあり、担当を外された年に初優勝をして社長表彰を頂いている。 人事では常に運の悪い男であった。
世の中はセラミックスエンジンの開発ブームに!
  余談ではあるが、セラミックピストンを試作した頃、世間の自動車メーカーは冷却の要らない?セラミックエンジンの開発にやっきになっていた。 多額の開発費を使いセラミックスエンジンを試作テストするとボロが出て来たのか、各自動車メーカーはセラミックスエンジンから撤退してしまった。自動車メーカーでもエンジンのセラミックス化にことごとく失敗しているので、ピストンピンのセラミックス化失敗は可愛い物だ。
750ccスーパースポーツ用エンジンの量産開発Grに転籍となる。
  4stエンジンなんぞ、新規設計したこと無いのに量産化に向けて一からのエンジン設計を任されてしまった。 自分の構想で位置からエンジン設計をすのは不安でもあり楽しみでもあった。
兼坂弘氏著書の ”究極のエンジン”三部作を読み漁る。
  会社の図書室に ”究極のエンジン”なる図書を見付け、ガラの悪い文面でエンジン開発の鋭い解説があり、H社の技術者をバカにした文面が面白く、三部柵すべてを読み漁った。 4stエンジンの開発を目指すには一読あれ。
TT-F3クラス
ロードレース用エンジン開発


GP500 GP250 GP125 TT-F1 TT-F3
1984年 平忠彦(ヤマハ) 小林大(ホンダ) 栗谷二郎(ホンダ) 八代俊二(モリワキ) 江崎正(ヤマハ)
1985年 平忠彦(ヤマハ) 小林大(ホンダ) 畝本久(ホンダ) 辻本聡(ヨシムラ) 山本陽一(ホンダ)
1986年 木下恵司(ホンダ) 片山信二(ヤマハ) 吉田健一(ホンダ) 辻本聡(ヨシムラ) 山本陽一(ホンダ)
1987年 藤原儀彦(ヤマハ) 清水雅広(ホンダ) 畝本久(ホンダ) 大島行弥(ヨシムラ) 田口益充(ホンダ)
1988年 藤原儀彦(ヤマハ) 本間利彦(ヤマハ) 廣瀬政幸(ホンダ) 宮崎祥司(ホンダ) 塩森俊修(ヤマハ)
1989年 藤原儀彦(ヤマハ) 岡田忠之(ホンダ) 山崎冬樹(ホンダ) ダグ・ポーレン(ヨシムラ) ダグ・ポーレン(ヨシムラ)
1990年 伊藤真一(ホンダ) 岡田忠之(ホンダ) 坂田和人(ホンダ) 岩橋健一郎(ホンダ) 鶴田竜二(カワサキ)
1991年 ピーター・ゴダード(ヤマハ) 岡田忠之(ホンダ) 小野真央(ホンダ) 宮崎祥司(ホンダ) 高橋勝義(ヤマハ)
1992年 ダリル・ビーティー(ホンダ) 原田哲也(ヤマハ) 斉藤明(ホンダ) 塚本昭一(カワサキ)  
1993年 阿部典史(ホンダ) 宇川徹(ホンダ) 加藤義昌(ヤマハ) 北川圭一(カワサキ)  
移動が続くが船外機の設計以外は楽しい仕事だった。
 
長くオフロード車のエンジン開発を担当させて頂き、モトクロス車のファクトリーエンジンにはやりがいを感じていた。 しかし、会社勤めでは好きな仕事は長く続かないもので・・・
  1987年 技術部に新規に ”Mプロ”(マリーン・プロ)と称する船外機の開発部門が出来て、
開発コード ”408”と称する50psの船外機開発が始まっていた。 そこに ジェットスキーエンジンの開発をしていた小生が指名された。 てっきり船外機のエンジン開発と思ったが、内容は船外機のトランサム部分であり、これには騙された感があった。
  1989年に ”408”の船外機は諸般の事情で開発中止となり、念願のロードレース車開発部門、所謂、ロードレースファクトリーチームである ”カワサキレーシング”の所属となる。
契約ライダーは元より、メカニックもロードレースに命を掛けた様な連中ばかりだった。
2年を掛けて当時カワサキの契約ロードライダーだった ”鶴田竜二”をTT−F3のチャンピオンに導くが出来たが、チャンピオンに輝く頃には、開発コード ”133” TT−F1のベース車となる4st4気筒750ccのエンジン設計に移動していた。
当時のTT−F3車のベースとなった ”ZXR400” 写真にはKitサイレンサーが付いている。
この時代から流行り出したラムエアー導入システムは殆ど効いていない。
量産車の出力は59ps/12,000rpmであるが、ファクトリー車では80psまでチューニング出来ていた。
知らぬ間に2022年の400ccロードスポーツ量産車は排ガス対策の為か? 2気筒エンジンに変更されていた。
250ccでも4気筒エンジンを量産しているカワサキなので、近々 400ccも4気筒が販売と期待する。
TTーF3ロードレースは量産車ベースのレースなのでファクリー車と言えど、改造には多くの規制が掛かっており、その規制を掻い潜って各社のファクトリーチームは改造していた。
開発コード ”005”エンジンにも様々な改造をしたが、写真も記録も残っておらず、薄れた
記憶だけを列記するが、覚えているのは失敗話しだけである。
・カムシャフトのギヤトレーン:H社では20年前から採用しているカムシャフトのギヤトレー
                              ンを試作してみたが、ベンチ性能中に煙を拭いて不採用。
                              ギヤのバックラッシュの取り方に問題があった様だ。
                              メカロス低減を狙ったが、1,6000rpm回転までに性能メリットが
                              無かったので以後の開発は中止した。
・マグネシウム鍛造ピストン  :マグネシウムを鍛造すれば強度上問題無いと判断し試作してみ
                              たが、Topリング溝で破損してしまった。 よく物性を調べて
                              見ると常温時の材料強度は満足していたが、運転中の高温時材
                              料強度が低いことが判った。 明らかな設計ミスである。
・セラミックピストンピン    :京セラがセラミック材料の売り込みに来て、使える部品を検討し
                              ていくと、ピストンピンに使えるのでは? の話しにまとまった。
                              ところが京セラが強度計算して持って来たピストンピンのサンプ
                              ルは軽量化の中抜き穴が随分と小さくなっており、軽量化の為の
                              セラミックピストンピンで無くなっていた。 折角作ってくれた
                              ピストンピンなのでベンチ性能で運転してみると、瞬時にバラバ
                              ラに壊れてしまった。 材料強度は強いが、運転中の衝撃には耐え
                              られなかったのだ。 エンジン内に粉々になったセラミックが
                              入り込み、オイルラインの掃除が大変でエンジンメカニックに
                              酷く怒られた。
・カーボンウールサイレンサー:ガラスウールメーカーである ”有)大和”からカーボンウールの
                              売り込みがあり、排気サイレンサーに使って見ることにした。
                              オーストラリアにテストに行っているチームから電話が入り、
                              サイレンサーから火が出たとの不具合連絡であった。
                              メーカーと相談すると、カーボンウールには耐熱性のグレードが
                              あり、一番安い耐熱の低いカーボンウールをサイレンサーに詰め
                              込んだらしい。 その後、耐熱性の高いカーボンウールを使用する
                              と、サイレンサーが燃える不具合は解消された。
・エンジン性能の確保        :今では騒音対策、排ガス対策を行ったスーパースポーツの量産車
                              でもリッター200psを得ているが、当時はリッター200psは
                              エンジニア、メカニックの夢であり、”005”で排気量400
                              ccで80psを得ることが出来、そのお蔭か?TT−F3の年間
                              チャンピオンを取ることが出来た。
エンジンの写真は参考
2023年2月
カワサキから400ccスーパースポーツ車 ”Ninja ZXー4R”が発表された。
4気筒400ccのエンジンはメーカー発表で80ps以上/未発表の高出力を発揮している
様であるが、やっと38年前の ”005”に追い付いたか? の思い出ある。
逆に言えば排ガス、騒音対策をしながらリッター200psの 80ps以上は立派である。
エンジンの基本構造は38年前の ”005”と同じであろうが、吸気ポート、燃焼室形状、排気系構造、メカロス低減等が計られられているのだろう。
出力アップと同時に販売価格も上昇している!!!